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風立ちぬベンチ

草紅葉が色づき始めたある日、湿原の奥の小さな木のベンチに風が座っていました。遠い日の記憶を呼び覚まして…


by sizuku

カントリーロード

8月17日、幼馴染のふみちゃんと、2年ぶりに再会する約束が決まっていた。
わたしは、6月中旬ごろから肩の激痛で夜も眠れない日々が続いていて、8月19日~21日にかけて
友人と出かける予定だった会津駒ケ岳をキャンセルしたばかりだった。
宿の手配や山小屋の予約など、いろいろやってくれていた友人に、キャンセルの連絡などで
また、手間をかけてもらった。彼女にも他の友人たちにも心配をかけている最中だというのに 
出かけるのは申し訳ない気がしたし、わたし自身、こんな状況で出かける自信がなかった。
兼ねてからの猛暑続きで、17日は関東では40度越えの猛暑日になるとの予報だった。
それに、ふみちゃんも今年の春、初期の癌が見つかり手術を受けて病み上がりの状況だった。
わたしは、この暑さは体に堪えるだろうなと思い『延期にしようか?』と提案するつもりで電話を掛けた。

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ところが彼女は行く気満々だった。
『暑いらしいけど平気、どこかでご飯食べておしゃべりするだけで良いから行こうよ』
と、相変わらず呑気な彼女に、「肩が痛いので延期にしよう」とは言えなくなってしまった。
「それじゃ、ローカル線の旅はどう?電車の中は涼しいし、いっぱいおしゃべりできるし、
ぶらりと降りて、美味しいものを食べて、また電車に揺られて帰るのはどうかしら?」
この提案に『ぶらり途中下車の旅みたいで、それいいね!!それにしよう』と賛成してくれた。
それなら、西武線沿線上の駅が最寄駅の彼女と、八高線が近いわたしとの合流点の東飯能駅で
待ち合わせして、西武秩父へと向かい、そこから秩父電鉄に乗り換えて三峰口方面を目指す。
途中、影森と言う駅にある古民家レストランで食事して、この日は土曜日でSLが走る日だから
帰りはSLに乗車するのもいいな。とこんな計画を立てた。
ただ、古民家レストランは、予約TELを掛けたらすでに満席とのことで、ローカル色満点の
武州日野駅で途中下車して近くの道の駅でお蕎麦とソフトクリームを食べることにした(笑)

そうして迎えた当日、予報通りの、すごく暑い日だったけれど、わたしたちは2年ぶりに再会を果たしたのだった。
西武秩父の駅に降りたのは何年ぶりだろう?とても立派になっていた。
駅の中のお土産物屋さんも充実してるし、なんと言っても“祭りの湯”という温泉施設ができていたのには驚いた。

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西武秩父駅から、少し歩いて秩父電鉄のお花畑駅に向かうわずかな道も様変わりしているような気がした。
踏切にさしかかるとブルーの貨物列車が来た。貨車には山盛りの石灰石が積まれている。
この列車が長瀞の川面に架かる高架な親鼻の鉄橋を渡る姿は、SL同様に絵になるのだった。
今日は肩が痛いのでいつもの一眼レフは持たずに、コンデジで撮影したので色合いが何だかいつもと違うなあ。

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次の電車の待ち時間に、駅のすぐそばにある14番札所の慈眼寺で御朱印を頂くことにした。
御朱印帳を書いていただく間、眼に良いとされるメグスリノキを煎じた冷茶を振る舞われた。
ふみちゃんは、珍しそうに御朱印帳を覗き込んでいた。


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彫刻がとても立派な観音堂だ。わたしは秩父札所の質素な佇まいと札所に関わる地元の方の素朴さに惹かれる。
初めて訪れた札所で出合ったおじいさんとのふれあいで、札所巡りを始めた事を思い出していた。
何年もかけて34番ある秩父札所を巡った事があった。最後の結願の寺に辿り着いた日の事をいつか彼女に話す事があるだろうか。

彼女は、退院してきた数ヶ月後、次男くんの取り計らいで家族水入らずで奈良の長谷寺と室生寺と薬師寺を巡る旅をしてきた事を
話してくれた。『7月だったから、以外と空いていて静かな旅を満喫出来たのよ。室生寺は主人が行きたがっていたの。わたしはどこでも良かったのだけれど、特に良かったよ。』わたしも奈良が大好きなので話が弾んだ。
大病を克服したお母さんをねぎらった次男君の優しさが胸に染みたのだった。
静かに手を合わせ、何かを一心に願う彼女だった。


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秩父鉄道は、とてもローカル色豊かな鉄道で、昔ながらの味わい深い駅舎で趣があるが、駅員さんもまた、何とも優しくて親切、暖かい対応をしてくれる。
ふみちゃんが、なにやら駅員さんにお願いしていると思ったらニコニコしている。
『1万円しかなかったから、崩してもらおうと思ったら、こんな切符になったよ。』
「ホント懐かしいね。昔ながらの切符だなんてラッキー。もう、ハサミも入ってるね。」
そう言えば、以前、はなねこ女子会で秩父に来たときも、こういう切符を切ってもらったことがあったなと思い出したのだった。

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秩父電鉄のローカル列車が来るのかな?とホームで待っていたら、「あれれ?」特別列車がはいって来た。


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ちょっと意外だったけど、ラグビーW杯の特別列車だった。


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なかなかアクティブだね。


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本当は、座席シートが対面式のこの列車に乗りたかったんだよね。


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やがて列車は、ローカルな武州日野駅に到着した。長閑な風情がとてもいいなぁ。
わたしはこの駅と次の白久の駅が大好きな事をふみちゃんに話しながら歩く。


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ホームから、駅舎に行くのに、こんな風に歩いて線路を横切るのって今のこどもは知らないかも?


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赤い屋根の可愛い駅舎が迎えてくれる。


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ふみちゃんは、駅員さんに何かお願いしている。


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待合室も昔のままの佇まい。


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貼られたポスターは秩父電鉄沿線の観光地



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素朴な暖かさに満ちた秩父。秩父鉄道は120周年だそうだ。


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ちょっとモデルは違っているけれど、わたしたちも女性二人旅^_^;


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おや?このポスターの駅はもしかして、この武州日野駅ではないかしら?


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川越も長瀞も良いね(*^_^*) 次回は行ってみようか?


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窓の外の緑は枝垂桜。桜やカタクリ、ニリンソウに水芭蕉、初夏には花蓮園と咲き続く。
この駅から、日野渓谷を歩いて“明ヶ指のカツラ“”という巨樹を探しに行った話をした。


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券売機も昔ながらの物、何だか可愛い。


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駅長室も、何ともよい雰囲気だ。


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ふみちゃんが駅長さんにお願いしたのは、このスタンプだった(*^_^*)
あのレトロ切符も記念にいただいたんだそう。


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踏切を渡りながら駅を眺めた。ここにSLを入れたら最高の絵になるなぁ。



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晩夏の花が咲き乱れる野道を行く。


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『お腹すいた~!!お蕎麦屋さんはまだ~!!』こどもみたいだねぇ(笑)


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『暑いねぇ、蕎麦屋はまだぁ!!』「もうすぐだから、頑張って!!」



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「あ、この角を曲がったらすぐだよ!」 『ああ、良かった!』
ほんの少しの距離だけど、病み上がりの彼女には大変だったのかも、ごめんね。


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『このお蕎麦、すごく美味しいね!!こんど、家族で来てみようかな!』と、
店名が印刷された箸袋を、大事そうにバックにしまう彼女。
本当に昔とちっとも変らないんだからなぁ…と思った。


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「あ、SL が来るから見に行こう!!」と、支払いを済ませて急いで外に出ると、汽笛が響き渡った。


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丁度、踏切に差し掛かるところだった。


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みんな思わず笑顔になって、スマホやカメラを構えている。
機関士さんも嬉しそうに手を振ってくれた。


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客車もレトロで素敵だ。SL磐越物語の客車に似ている。


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緑の中を走り抜けるSLには、子どもじゃなくてもわくわくするものだ。
ふみちゃんも動画を撮って大満足だったみたい。


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それにしても暑い日、じゃぁ、道の駅にソフトクリームを食べに行こうね!ってことで飛び込んだ。
ゴーヤの緑のカーテンじゃなく、“宇宙芋”だって?


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ここのソフトクリームは濃厚でとっても美味しい!!あっという間に食べちゃった。
写真撮るの忘れた^_^;
珈琲をオーダーして、またまた、おしゃべり。今日はおしゃべりするのが目的だものね。
店内は混んでいて、オーダーは券売機で買って、出来たら取に行くセルフサービス、
わたしたちはカウンター席に座っていた。隣の席にお年寄りのご夫婦がいて、椅子に腰かけるのも大変そうだった。
すると若い店員さんがやって来て、『テーブル席が空いたので移動しましょうか?』って、
スムーズに誘導してあげて、注文した品物も運んであげていた。
その様子が実に自然で清々しかった。ふみちゃんが、『やさしいね。』と言った。
わたしたちは、何だかほっこりして、席をたった。おしゃべりは歩きながらでもできるものね。

お店の奥には、いろいろ展示物があった。秩父は古生代は海だったそうだ。
その頃の地層から恐竜の化石も発見されているんだって。「パレオパラドキシア」だったかな。
その名前を取って、SLの名前にしたんだって。なんて、当てにならない知識を披露したりした^_^;

若き日の宮沢賢治さんが、地質を調べるために、長瀞や皆野に立ち寄ったと知った頃から、地質に興味を持ちだしたわたし。
最近のジオパークブームも手伝って、ますます興味津々、もう一度「ようばけ」や化石館にも行ってみたいのだった。

石灰岩に含まれた石英、このキラキラに子どもの頃も惹かれていたことをいまさらながら思い出す。

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うーんキラキラが綺麗だなぁ…


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古生代の地層からは多くの貝の化石も出ているそうだ。
さてさて、お土産のお蕎麦も買ったし、そろそろ武州日野駅に戻ろうか?


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もしかしたら、帰りのSLにどこかで会えるかも?と歩き出したら、ちょうど駅に着いた時にSLが通過した。


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いつ見てもこの力強いフォルムに憧れるなぁ。


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この駅は通過駅なので、黒煙を吐きつつ、走る抜けていくのだった。


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長閑な駅を通り過ぎるSL,もうちょっと場所を選んで撮りたかったけれど、今回は手が痛いので
一眼レフは持ってきてないし、上がらない肩では、コンパクトデジカメがやっとだからこんなものかな。


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手が震えて、ブレブレだしね。


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次の列車を待つ間、記念写真を撮った。


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わたしがホームの端まで歩いて行って写真を撮っていたら、歌声が…
ふみちゃんが、ホームのベンチでくつろぎながら歌っているのだった。

♪カントリーロード この道 ずっと行けば 
     あの町に続いてる気がするカントリーロード…  ♪


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カーペンターズの Top of The World も…
懐かしいなぁ、わたしたちの青春時代だったね。


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わたしも、そっと口づさんだ。

緑の風に吹かれて歌っている彼女は、少女のようだった…

https://youtu.be/3hyFB6SA7b4?list=RDiSfPJqEKzt0

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やがて、帰りの電車がゆっくりとホームに入ってきた。


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『今日は本当に楽しかったね。ありがとう。のんびり途中下車の旅、最高だったよ!!
考えてみたら、昔もいつも計画を立ててくれたのはひさ子ちゃんだったよね。』

「わたしも、ふみちゃんと最後に行った東北の旅を思い出していたよ。いつも行き当たりばったりだったけど楽しかったよね。」

帰りの列車は、お望みどおりの対面式の座席のローカル列車だった。
この写真のお嬢さんたちみたいな2人ではないけれど、気持ちだけはキラキラした20代の二人だった。

お互いに体を労わりながらのシルバーな旅だったけど、また行こうね!!


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お土産に買った“秩父餅”は、とっても柔らかくておいしかったよね(^^)

              おしまい❤


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by kazetatinu-h | 2019-09-10 11:12 | 思い出